吉田｜宮﨑・吉田―家畜ふんの成分調整・成型肥料

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本頁は日作紀に掲載．図表省略

成分調整・成型豚ぷん肥料の水稲への施用効果

宮﨑成生・齋藤匡彦・高橋行継・吉田智彦
要旨：成分調整・成型豚ぷん肥料を用いて水稲を栽培し施用効果を検討した．基肥として含有窒素の84％が豚ぷん由来の豚ぷん肥料を，追肥として慣行の化学肥料を施用して水稲を栽培した場合，慣行栽培に比べ追肥期までの生育がやや劣ったものの，同等の収量および品質となった．この場合，化学肥料の窒素成分量を慣行栽培の50％削減したことになった．また，水稲栽培終了後の土壌に窒素が23 kg ha－1 残ると試算され，豚ぷん肥料の連用による土壌への窒素成分の蓄積を確認する必要があった．
キーワード：減化学肥料栽培，水稲，成型肥料，成分調整肥料，豚ぷん．
The Effect of Pig Waste Pellet Fertilizer on the Growth and Yield of Rice：Naruo MIYAZAKI, Masahiko SAITO, Yukitsugu TAKAHASHI and Tomohiko YOSHIDA
Abstract：The effects of pig waste pellet fertilizer on the growth and yield of rice were examined. The pig waste pellet fertilizer was added together with chemical fertilizer. When the rice plant was cultivated by using pig waste pellet fertilizer as basal application and ordinary chemical fertilizer as supplemental application, the growth of rice before the supplemental application of fertilizer decreased a little compared with the standard cultivation. However, the yield and the quality of rice were similar to those under standard cultivation when 84% of the nitrogen in the pellet fertilizer originated from pig waste. In this case, chemical fertilizer was reduced by 50% compared with the standard cultivation. The amount of nitrogen remaining in the soil after harvesting the rice was estimated to be 23 kg ha－1. It was necessary to confirm the accumulation of nitrogen in soil after successive application of the pig waste pellet fertilizer.
Key words：Element adjustment fertilizer, Pellet Fertilizer, Pig waste, Reduced chemical fertilizer cultivation, Rice plant.

家畜ふん尿の利用促進が望まれており，利用面での取扱性の向上を目指し，家畜ふん堆肥に他の有機性資材を添加して成分を調整し成型した堆肥の製造と作物への施用効果が検討されている (松元 1999，山田ら 2000，山本・土屋 2004)．しかし，添加する有機性資材の選定や確保が難しい，製造物の成分バランスが作物の要求に合わないなど問題がある．

前報 (宮﨑・吉田2007) では，家畜ふんを堆肥化しないで化学肥料を添加して成分を調整し成型肥料にする技術を開発し，短時間で目的の成分に調整し減量化して利用時期まで保管できること，および製造した肥料はポット試験でコマツナ，ホウレンソウに対し市販の有機入り化成肥料と同等の肥効があることを明らかにした．この肥料は家畜ふんを堆肥化せず化学肥料を添加し成型しているため，家畜ふん堆肥に他の有機性資材を添加し成型したもの (松元 1999，山田ら 2000，山本・土屋 2004) とは施用効果が異なることが予想される．家畜ふん肥料の利用を考えた場合，ほ場規模での適用の可否を検討する必要がある．一方，化学肥料の窒素成分量および節減対象農薬の使用回数を慣行栽培の50％以下にして栽培された農産物が特別栽培農産物とされ，付加価値を高めている．そこで，全国的に作付面積の広い水稲を対象に家畜ふん肥料の施用効果をほ場規模でおこなった．その際，化学肥料の窒素成分量を50%削減することを目指し豚ぷん肥料の配合割合の検討をした．

なお，牛ふん肥料は原料である乾燥牛ふん由来窒素の無機率が低い (宮﨑・吉田2007) ため，化学肥料窒素の使用量を慣行栽培の50％削減する目的での利用は難しいと考え，本試験では豚ぷん肥料についてのみおこなった．

材料と方法
1. 栽培概要
豚ぷん肥料の水稲への施用試験を2003年～2004年に栃木県農業試験場水田ほ場でおこなった．供試土壌は厚層多腐植質多湿黒ボク土，試験規模は１区36ｍ2 (10m×3.6m) の2反復，供試品種はコシヒカリであった．栽植密度は30cm×15cm，1株4本植とした．供試肥料は前報 (宮﨑・吉田2007) に示した方法に基づき製造した．すなわち，豚ぷんを熱風乾燥機 (250～300℃，15～30分間乾燥) で水分を15％程度にし，成分調整のため，尿素，熔リンおよびパームアッシュを添加，混合した後，湿式押出造粒機で直径３mm，長さ10mm程度のペレット状に成型し，さらに通風乾燥機で水分5％程度まで乾燥した．製造の際，供試肥料を水稲に施用した場合，化学肥料由来の窒素が慣行施用量の50％以下になるよう混合割合を調整した．なお，窒素成分の調整においては原料である豚ぷんの窒素肥効率を50％とした．また，成分調整資材として前報の塩化カリに代え，付加価値を高めるため入手が容易な有機性資材であるパームアッシュ (く溶性カリ30％，く溶性リン酸1％) を用いた．供試豚ぷん肥料の原料混合比率および化学性を第1表に示した．

2. 試験１．全量基肥の検討
含有窒素の50％が豚ぷん由来の豚ぷん肥料50の施用試験を2003年におこなった．試験区の構成を第2表に示した．豚ぷん肥料50-1.5倍区は豚ぷん肥料50で窒素113 kg ha－1 相当を全量基肥として施用した．豚ぷん肥料50-1.2倍区は豚ぷん肥料50で窒素90 kg ha－1 相当を全量基肥として施用した．豚ぷん肥料50-1倍区は豚ぷん肥料50で窒素成分75 kgＮ ha－1 相当を全量基肥として施用した．化学肥料区は基肥用BB肥料 (アンモニア性窒素8％，く溶性リン酸25％，水溶性カリ20％) で基肥窒素35 kg ha－1 相当，追肥用BB肥料 (全窒素20％うちアンモニア性窒素7％，水溶性カリ20％) で追肥窒素40 kg ha－1 相当を施用した．窒素無施用区は基肥として過リン酸石灰および塩化カリ，追肥として塩化カリを施用した．は種は4月14日，代かきは4月21日および30日，施肥は4月30日，移植は5月7日，収穫は9月18日におこなった．また，追肥は化学肥料区および窒素無施用区のみ7月15日におこなった．

水稲の生育，収量，品質，窒素吸収量，跡地土壌のpHおよび可給態窒素，供試豚ぷん肥料の窒素無機化特性を調査した．水稲の生育および窒素吸収量は最高分げつ期 (6月27日)，幼穂形成期 (7月15日)，成熟期 (9月18日) に調査した．土壌の分析は土壌標準分析・測定法 (土壌標準分析・測定法委員会 1986)，作物体の分析は栄養診断のための栽培植物分析測定法 (作物分析法委員会 1975) によりおこなった．水稲の窒素吸収量は植物体の乾物重と窒素含有率から算出した．供試豚ぷん肥料の窒素無機化特性は，堆肥等有機物分析法の埋設法 (高木 2000) により測定した．すなわち，粉砕した豚ぷん肥料50を3ｇ，水田土壌 (水分 60％程度) 50ｇに混合後，不織布の袋に入れ，施用試験と同一のほ場内に4月30日の代かき直後に設置し，経時的に3試料ずつ取り出し，風乾砕土後ケルダール法で全窒素を定量した．なお，設置は袋が完全に作土中に収まるようおこない，周囲には水稲を栽培しなかった．同様におこなった土壌のみの全窒素量を差し引き，豚ぷん肥料50の残存窒素量とし，豚ぷん肥料50に含まれていた全窒素に対する残存窒素率を算出した．算出方法は，窒素残存率＝ (埋設後回収した豚ぷん肥料添加試料の全窒素量) － (埋設後回収した土壌のみの試料の全窒素量) / (添加した豚ぷん肥料の全窒素量) ×100で示される．また，乾燥豚ぷんだけを成型した試料について豚ぷん肥料50と同様に埋設試験をおこない，乾燥豚ぷんの残存窒素率を算出した．

3. 試験２．追肥の検討
2004年におこなった．試験区の構成を第3表に示した．豚ぷん肥料100区は基肥窒素として豚ぷん肥料100で77 kg ha－1 相当，追肥窒素として追肥用BB肥料で23 kg ha－1 相当を施用した．豚ぷん肥料90区は基肥窒素として豚ぷん肥料90で70 kg ha－1 相当，追肥窒素として追肥用BB肥料で26 kg ha－1 相当を施用した．豚ぷん肥料84区は基肥窒素として豚ぷん肥料84で65 kg ha－1 相当，追肥窒素として追肥用BB肥料で27 kg ha－1 相当を施用した．化学肥料区は基肥窒素として基肥用BB肥料で35 kg ha－1 相当，追肥窒素として追肥用BB肥料で40 kg ha－1 相当を施用した．窒素無施用区は基肥として過リン酸石灰および塩化カリ，追肥として塩化カリを施用した．

は種は4月16日，代かきは4月22日および5月7日，施肥は5月7日，移植は5月11日，追肥は7月13日，収穫は9月8日におこなった．調査項目および調査方法は，試験１と同様におこなった．ただし，水稲の生育および窒素吸収量は分げつ初期 (6月9日)，最高分げつ期 (6月30日)，幼穂形成期 (7月13日)，成熟期 (9月8日) に調査した．

結果
1. 全量基肥の検討
水稲の生育および葉色の推移を第4表に示した．豚ぷん肥料施用区では，6月27日，7月15日とも草丈，茎数，乾物重および葉色の値は，施用量の多い区ほど大きかった．それぞれの項目を化学肥料区と比較する．豚ぷん肥料50-1倍区は，草丈が6月27日，7月15日とも同じ，茎数が6月27日，7月15日とも少なく，乾物重が6月27日に同程度であったが，7月15日に劣り，葉色が6月27日，7月15日とも濃かった．豚ぷん肥料50-1.2倍区は，草丈，茎数が6月27日，7月15日とも優り，乾物重が6月27日に優ったが，7月15日に劣り，葉色が6月27日，7月15日とも濃かった．豚ぷん肥料50-1.5倍区は，草丈，茎数，乾物重および葉色の値が6月27日，7月15日とも大きかった．

水稲の収量構成要素を第5表に示した．穂長，稈長，穂数および精玄米重は，化学肥料区＞豚ぷん肥料50-1.5倍区≒同1.2倍区＞同1倍区＞窒素無施用区であった．わら重は，豚ぷん肥料50-1.5倍区＞同1.2倍区＞化学肥料区＞豚ぷん肥料50-1倍区＞窒素無施用区であった．豚ぷん肥料50施用区の千粒重および玄米窒素含有率の値は，化学肥料区に比較して小さかった．

水稲の窒素吸収量の推移を第1図に示した．豚ぷん肥料50施用区の窒素吸収量は，6月27日，7月15日および成熟期とも施用量の多い区ほど大きかった．化学肥料区の窒素吸収量は，6月27日に豚ぷん肥料50-1倍区より少なく，7月15日に豚ぷん肥料50-1.2倍区程度，成熟期に豚ぷん肥料50-1.5倍区より多くなった．ほ場埋設による豚ぷん肥料50および成型豚ぷんの窒素残存率の推移を第2図に示した．豚ぷん肥料50の窒素は，化学肥料区で追肥をした7月15日から収穫までの間に約20％溶出した．これをもとに試算すると，本試験で施用量がもっとも多かった豚ぷん肥料50-1.5倍区の場合，窒素として114 kg ha－1 施用されたことから (第2表)，この間に供給された窒素量は23 kg ha－1 となり，化学肥料区の追肥窒素量40 kg ha－1 より少なかった．跡地土壌のpHおよび可給態窒素は第6表に示した．pHは，いずれの試験区とも6.8程度で豚ぷん肥料の施用による影響はなかった．可給態窒素は，処理による大きな違いはなかった．

2. 追肥の検討
水稲の生育および葉色の推移を第7表に示した．草丈に処理区間の大きな違いはなかった．茎数および乾物重は調査期間中いずれの豚ぷん肥料施用区とも化学肥料区を下回った．豚ぷん肥料施用区の葉色は化学肥料区に比べ6月13日に低く，7月13日にやや高くなり，追肥後の7月28日には低くなった．水稲の収量，収量構成要素および品質を第8表に示した．穂長および稈長に処理区間に大きな差異はなかった．穂数は化学肥料区の342本 m－2 に対し，豚ぷん肥料100区が91％，豚ぷん肥料90区が95％，豚ぷん肥料84区が93％と豚ぷん肥料施用区が低かった．倒伏程度は豚ぷん肥料施用区でやや小さくなる傾向があった．精玄米重は化学肥料区の553ｇ m－2 に対し，豚ぷん肥料100区が95％，豚ぷん肥料90区が94％と低かったが，豚ぷん肥料84区が同等となった．千粒重は化学肥料区に比べ，豚ぷん肥料84区および豚ぷん肥料90区が同程度で豚ぷん肥料100区がやや低くなった．玄米の窒素含有率は豚ぷん肥料施用区が化学肥料区に比べやや低かった．豚ぷん肥料施用区の外観品質は化学肥料区とほぼ同等であった．

水稲の窒素吸収量の推移を第3図に示した．窒素吸収量は追肥直前の7月13日に化学肥料区に対し，豚ぷん肥料100が84％，豚ぷん肥料90が88％，豚ぷん肥料84が83％であったが，収穫時には化学肥料区に対し，豚ぷん肥料100が95％，豚ぷん肥料90が94％，豚ぷん肥料84が同等となった．ほ場埋設による豚ぷん肥料の窒素無機化率の推移を第4図に示した．追肥 (施肥55日後) までに豚ぷん肥料から溶出した窒素の割合は，豚ぷん肥料100が53％，豚ぷん肥料90が59％，豚ぷん肥料84が55％であった．このときまでに添加した尿素がすべて溶出したとすると，豚ぷん由来窒素の溶出率は，豚ぷん肥料100が53％，豚ぷん肥料90が54％，豚ぷん肥料84が46％となり，試験設計時に仮定した豚ぷん由来窒素の無機化率45％とほぼ同じかやや高い値であった．水稲収穫時の窒素残存率は，豚ぷん肥料100が40％，豚ぷん肥料90が39％，豚ぷん肥料84が35％であった．

跡地土壌のpHおよび可給態窒素に処理区間の大きな違いはなかった (第9表)．

考察
豚ぷん肥料50を全量基肥として早植の水稲コシヒカリのほ場試験をおこなった．豚ぷん肥料50施用区は，施用量に応じて水稲の生育および収量が良好であった．化学肥料区に比較して6月27日および7月15日の茎数は1.2倍以上施用した区で優ったが，有効茎数の確保には結びつかず穂数は全ての区で劣り，収量の減少をもたらした．幼穂分化期の窒素不足が原因と推測する．豚ぷん肥料施用区の千粒重の値は，化学肥料に比較して小さく，登熟期に窒素が不足したと考えられた．豚ぷん肥料の施用による跡地土壌のpHおよび可給態窒素への影響はなかった．

これらのことから，豚ぷん肥料50施用区は生育前半に窒素をやや過剰に供給したが，中盤以降不足し収量に結びつかなかったと考える．そのため，豚ぷん肥料を水稲に用いる場合，７月上旬以降の窒素不足を補うために，全量基肥ではなく追肥を行う必要があった．

そこで，次に早植の水稲コシヒカリに対し，基肥として豚ぷん肥料の利用と追肥の検討をおこなった．追肥は米の品質や食味に大きな影響を与える．たとえば出穂期近くでの窒素施用は精米中タンパク質含有率の増加による食味の低下をもたらす (本庄 1971，熊谷ら 1994，藤井ら 1998)．豚ぷん肥料は窒素無機化が長期間持続する (宮﨑・吉田2007)．また，豚ぷん肥料は肥料成分濃度が低いため施用量が多くなる．これらのことから，追肥として豚ぷん肥料の利用は不向きであると考え，速効性の化学肥料を用いることにした．このため，窒素化学肥料の施用量を慣行の50％以下にする場合，基肥として用いる豚ぷん肥料の窒素成分の豚ぷん由来割合は84％以上と高くなった．

基肥として豚ぷん肥料を追肥として慣行の化学肥料を施用して水稲を栽培した場合を，化学肥料を用いた慣行栽培と比べる．草丈は同程度であったが，茎数は少なく推移し穂数は少なかった．葉色値は最高分げつ期に低く幼穂形成期にやや高かった．穂数は少なかったものの精玄米重はほぼ同等であり1穂籾数が多かった．玄米の千粒重は同等かやや低く，窒素含量はやや低かった．外観品質は同等であった．これらのことから，豚ぷん肥料施用区では窒素成分が生育前半にやや不足していたが，幼穂形成期には化学肥料区ほど低下せず，また追肥および穂数が少ないことにより穎花の退化が抑制され籾数が確保された．しかし，豚ぷん由来窒素の無機化を考慮して追肥量を削減したため，出穂期近くには窒素成分がやや不足し玄米中の窒素含量および米粒の肥大が少し抑えられたものの外観品質には影響がなかったと考える．

つまり，水稲栽培の基肥として試作肥料「豚ぷん肥料84」，追肥として速効性の化学肥料を豚ぷん由来窒素の無機化を考慮した量を施用することにより慣行栽培と同等の収量および品質が得られた．

松元 (1999) は，水稲に対し，鶏ふんペレット堆肥を主体に牛ふんペレット堆肥を混合したものを基肥に，速効性の窒素を追肥にすることで慣行栽培と同等の収量が得られるだろうと推察している．しかし，窒素を基準に施用した場合，リン酸およびカリが過剰に投入されるため，長期連用によるそれら成分の土壌への集積が懸念される．このように有機性資材の組合せでは，作物の養分要求バランスどおりに含有成分割合を調整することは難しい．一方，本試験で用いた豚ぷん肥料は有機性資材に化学肥料を添加して製造するため，目的に合わせて成分割合を調整できる．

試作肥料「豚ぷん肥料84」の場合，水稲栽培期間中に溶出しなかった窒素成分が35％であり，2080 kg ha－1 施用しているので23 kg ha－1 の窒素が残ったことになる．栃木県農業試験場内でおこなわれた黒ボク土水田での有機物長期連用試験では，稲わらとして１年間に施用された窒素量は29 kg ha－1 であり，14年間の施用により土壌の窒素供給量が増加した (武田ら 2000)．このことから，豚ぷん肥料でも連用により土壌の窒素成分の蓄積および供給量の増加が考えられる．

下水汚泥の熱処理は殺菌や乾燥の効果に加え，加熱方法により汚泥の窒素無機化速度や肥効を増減させる効果を持ち (Matsuokaら 2006，Moritsukaら 2006)，その原因は熱処理による有機態窒素の形態変化である (Matsuoka ら 2006)．本試験で用いた豚ぷん肥料の製造には加熱工程があり，加熱条件の設定が豚ぷん由来窒素の無機化速度や肥効へ影響を及ぼすことが考えられる．特に窒素の供給が収量や品質に大きな影響を受ける水稲に対し，豚ぷん由来窒素の施用割合を高くする場合は，豚ぷん肥料製造工程での加熱条件がとても重要になる．今後，肥効面から製造工程での加熱条件の詳細な検討が必要となる．

豚の飼料には成長促進のため一定量のCu，Znが添加されており，豚ぷんには飼料の4倍に濃縮された高濃度のCu，Znが含まれる (磯部・関本 1999) ため，豚ぷん肥料施用による土壌へのCuおよびZnの負荷量について考える．本試験で用いた肥料のCuおよびZn濃度は測定していないため，磯部・関本 (1999) の報告した栃木県における豚ぷんの含有率の平均値Cu 135 mg kg－1，Zn 471 mg kg－1 をもとに試算する．豚ぷん肥料84は乾燥豚ぷん100 kgに尿素1.8 kg，溶リン30 kgおよびパームアッシュ12.5 kgを添加しているため，乾燥豚ぷんは69％に希釈されていることになり，含有率はCuが94 mg kg－1，Znが327 mg kg－1 となる．また，水稲栽培の基肥として豚ぷん肥料84を2080 kg ha－1 施用しており，Cuが0.195 kg ha－1，Znが0.680 kg ha－1 土壌に負荷されたことになる．この値は，磯部ら (1999) が試算した豚ぷん堆肥施用による負荷量の平均値Cu 2.2 kg ha－1，Zn 5.2 kg ha－1 に比べはるかに小さい．Ogiyamaら (2005) は，年間負荷量がCu 17 kg ha－1，Zn 40 kg ha－1 の豚ぷん堆肥を5年間連用すると土壌中のCu，Zn含量が増加したが，年間負荷量がCu 2.7 kg ha－1，Zn 10.4 kg ha－1 の牛ふん堆肥の場合5年間連用しても土壌への影響がなかったとしている．このことから，水稲栽培の基肥として豚ぷん肥料を連用しても土壌への影響は少ないと考えられる．

これらのことから，基肥として豚ぷん肥料，追肥として速効性の化学肥料を用いることにより化学肥料の窒素成分量を慣行栽培の50％削減した水稲を栽培できると考えられる．現在，水稲栽培の省力化のために全量基肥肥料が普及していることから，今後，豚ぷん肥料と被覆肥料との混合施用による追肥の省略の検討を，また年次変動および豚ぷん肥料の連用効果による土壌および水稲への影響を確認する必要がある．

なお，成分調整・成型牛ふん肥料は，原料である乾燥牛ふん由来窒素の無機率が低い (宮﨑・吉田2007) ため，化学肥料の窒素成分量を慣行栽培の50％削減する目的での利用は難しいと考え本試験では検討しなかった．しかし，牛ふん炭化物がコマツナに対しリン酸，カリともに肥料効果があった (松丸・真行寺 2005) ことから，乾燥牛ふん由来のリン酸およびカリについては，化学肥料の代替効果が期待できる．また，前報 (宮﨑・吉田2007) で示したとおり，牛ふん肥料はコマツナおよびホウレンソウに対し市販の有機入りペレット肥料と同等の肥効を有しており，利用価値のある肥料と考える．

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